大きな地震のあとに街のあちこちから火の手が上がった場合、消防車はすぐに駆けつけてくれると思いますか?
普段の火事ならば通報すれば消防隊がやって来て消し止めてくれます。ところが大地震のあとには同時にいくつもの火災が発生し、道路も寸断されてしまい水道も止まって消防の力が一軒一軒に行き届かなくなることがあります。そうして1軒の火事が街全体を焼く「大火」へと広がってしまう——これが地震火災の怖さです。
この記事では、延焼が広がるしくみや「火災旋風」という現象、大火・地震火災から身を守るための備えと避難の考え方を内閣府・消防庁の資料をもとに解説します。
「大火」とは──1軒の火事が街を焼く
「大火(たいか)」とは、1か所から出た火が次々と隣の建物へ燃え移り市街地の広い範囲を焼いてしまう火災のことです。日本では古くからくり返し起きてきた災害で、近年でも強風などの悪条件が重なって大きな被害を出した例があります。
記憶に新しいのが2016年(平成28年)12月に新潟県で発生した糸魚川市の大規模火災が挙げられます。1軒の飲食店から出た火が強い風にあおられて次々と燃え広がり、約150棟が焼損する近年まれにみる市街地火災となりました。地震が起きていなくても強風と木造建物の密集という条件がそろえば、大火は起こり得るということを示した災害でした。
つまり大火は特別な場所だけで起きる遠い話ではありません。古い木造住宅が密集している地域は全国の都市に数多く残っています。自分の住む街がどのような地域なのかを知っておくことが備えの第一歩になります。
なぜ延焼は広がるのか
火が1軒から街へ広がっていくことを「延焼」といいます。延焼が広がりやすい条件には、いくつかの共通点があります。
ひとつは建物が燃えやすいこと。木造の家屋が多く、しかも隣との間隔が狭い密集地では、いったん火がつくと隣家へ次々と燃え移ります。古い街並みほどこの傾向が強くなります。こうした密集地は道路も狭いことが多く消防車が火元の近くまで入れないという問題も重なります。
もうひとつは風です。強い風が吹いていると炎が風下へなびいて燃え広がる速さが増します。さらに火の粉が風に乗って遠くへ飛び、離れた建物に新たな火災を起こす「飛び火」も起こります。飛び火は火元から数十メートル、ときにそれ以上離れた場所にも火をつけることがあり消し止めるのを難しくします。
そして決定的なのが消火が追いつかないことです。同時に複数の場所で燃えていたり、断水で水が出なかったりすると消防隊だけでは火を抑えきれません。こうして条件が重なったときには通常時の火事が大火へと姿を変えてしまうのです。
地震火災──同時多発という最悪のシナリオ
大火のなかでも特に警戒すべきなのが地震に伴う火災です。地震火災が恐ろしいのは、同じ時間にあちこちで火災が発生する点にあります。

地震で火事になっても消防車を呼べば消してもらえるよね?

それが大地震のあとは同時にあちこちで火災が起きて、道路の寸断や断水も重なり、消防がすぐには来られないことがあるんです。だからこそ一軒一軒が「火を出さない」「小さいうちに消す」ことが何より大事になるんですよ。
内閣府防災の阪神・淡路大震災教訓情報資料集によると、1995年の阪神・淡路大震災では地震が原因とみられる火災が計285件発生したとされ、その半数以上は地震直後の1時間以内に起きています。大規模な延焼へと拡大した火災の多くは古い木造家屋が密集した地域で発生していたと記されています。
地震直後は、倒れた家具やストーブ、復旧した電気(通電火災)、壊れたガス管など出火の原因がいたるところに生まれます。それが同時多発するため、消防力は分散し、しかも道路の寸断や断水で消火活動そのものが難しくなります。「火が出ても、すぐには消してもらえないかもしれない」——この前提に立って備えることが地震火災対策の出発点です。
実際に大地震の直後は119番への通報が殺到し、電話そのものがつながりにくくなることもあります。だからこそボヤのうちに自分たちで消し止める初期消火の力が被害の拡大を防ぐ鍵になります。揺れを感じたら、まず身の安全を確保し揺れがおさまってから火の始末を落ち着いて確認する習慣をつけておきましょう。ガスは強い揺れを感知すると自動で止まる場合が多いものの、念のため元栓や電気のブレーカーにも気を配ると安心です。
地震のあとに電気が復旧して起きる通電火災は感震ブレーカーなどで防げる代表的な地震火災です。自宅での地震への備えとあわせてご参考にしてください。

「火災旋風」という現象
地震火災や大火で語られる最も激しい現象が「火災旋風(かさいせんぷう)」です。これは、広い範囲で火災が燃え盛るとき炎の熱で生まれた上昇気流に周囲の空気が巻き込まれ、**炎を含んだつむじ風(竜巻のような渦)**が発生するものです。
火災旋風は、建物だけでなく広い空き地にいる人をも巻き込むことがあり、逃げ込んだ避難場所が安全とは限らないことを歴史が示しています。1923年の関東大震災では家財道具を持って避難してきた人々が密集した空き地で火災旋風が発生し極めて多くの命が失われたと伝えられています。関東大震災で亡くなった方の大半は、地震の揺れそのものではなく火災によるものだったとされ地震火災がいかに大きな脅威かを物語っています。
前出の内閣府の資料でも単独で建つ建物が周囲の空気を取り込んで激しく燃える「かまど現象」が紹介されています。火災が大規模になる程に炎は自ら風を生み勢いを増していくのです。だからこそ火災旋風が起きるような状況に近づかない・早めに離れることが身を守るうえで欠かせません。
自分の住む街の「燃えやすさ」を知る
大火や地震火災への備えは、自分の住む地域がどれくらい燃えやすいかを知ることから始まります。同じ市内でも、古い木造住宅が密集した地域と新しく建てられた耐火建築が多い地域とでは火災の広がりやすさが大きく異なります。
多くの自治体は、地震ハザードマップや地域の危険度マップを公表しており自宅周辺の「建物の倒壊しやすさ」や「火災の燃え広がりやすさ」を色分けで確認できます。まずは自分の住所がどう評価されているかを見ておきましょう。危険度が高い地域では、より早めの避難を意識する必要があります。古いブロック塀や狭い路地が多い地域では地震でそれらが崩れて避難経路がふさがれることも想定し、行き止まりにならない逃げ道を複数考えておくと安心です。
行政の側でも燃え広がりを食い止めるために幅の広い道路や公園といった「延焼遮断帯」の整備や、建物を燃えにくくする不燃化の取り組みが進められています。とはいえ街づくりには時間がかかります。住民一人ひとりが「自分の家から火を出さない」「危ないと思ったら早く逃げる」ことが結局は街全体を守る力になります。
大火・地震火災から身を守る
では私たちには何ができるのでしょうか。大火・地震火災への備えは「火を出さない」「早めに逃げる」の2つに集約されます。
まず「出火を防ぐ・小さいうちに消す」
同時多発火災を防ぐ最大のポイントは、一軒一軒が出火させないことです。地震の揺れで電気が原因の火災が起きないように感震ブレーカーを設置しておくと不在時や避難後の通電火災を防ぐのに役立ちます。

揺れがおさまったら可能な範囲で火の始末を確認し、小さな火であれば消火器などで初期消火します。ただし無理は禁物です。炎が天井に届くほど大きくなったら消火はあきらめて逃げることを優先してください。特に空気が乾き、強い風が吹いている日は小さな火でもあっという間に燃え広がります。乾燥注意報や強風注意報が出ているときは、いつも以上に火の取り扱いに注意しましょう。
延焼から「早めに、風を読んで逃げる」
大火・地震火災では、早めの避難が命を守ります。「もう少し様子を見てから」と迷っているうちに延焼や飛び火で逃げ道がふさがれることがあります。煙や炎が近づいてきたら、ためらわず避難を始めましょう。

火事から逃げるときは、いつもの避難所に行けばいいのかな?

火災から命を守るときは大きな公園などの「広域避難場所」を目指すのが基本です。家を失った人が生活する「避難所」とは役割が違うんです。逃げる向きも大切で火は風下へ広がるので、風上や風の横へ、火元から離れる方向に逃げてくださいね。
逃げる方向も大切です。火は風下へ広がるため風上や風の横の方向へ、火元から離れるように逃げます。そして向かう先は、一時的に身を寄せる避難所ではなく大規模な火災から身を守るために指定された**広域避難場所(大きな公園や広場など)**です。火災から逃げ込む「広域避難場所」と家を失った人が生活する「避難所」は役割が違います。延焼から命を守る段階では、まず燃え広がらない広い空間を目指すと覚えておきましょう。自分の地域の避難場所と、そこまでの安全な経路を平常時にハザードマップで確認しておくことが大切です。

逃げるときは荷物を持ちすぎないことも大切です。欲張ると動きが遅くなり、かえって危険です。両手が空くようにして最小限の持ち出し品で素早く避難しましょう。関東大震災では家財道具を抱えて逃げたことが避難の妨げになったともいわれています。
最後に地震火災は地域ぐるみの災害でもあります。木造が密集した地域では、住民や自主防災組織が自分の安全を確保できる範囲で、初期消火や飛び火の警戒、早めの通報といった協力をすることが被害を抑える力になるとされています。街頭に置かれた消火器や消火バケツの場所を知っておく、防災訓練に参加して使い方を覚えておくなどと日頃から近所と顔をつないでおくことも立派な備えのひとつです。
まとめ
大火と地震火災はなぜ起きるのか、延焼や火災旋風のしくみ、そして身を守るための備えと避難の考え方をご紹介しました。
大火は、木造の密集と強風、消火の遅れが重なって広がります。特に地震のあとは火災が同時多発し消防がすぐに来られないことを前提に備える必要があります。感震ブレーカーなどで出火を防ぎ、延焼が迫る前に風上の広域避難場所へ早めに逃げる——この心構えが、街を焼く火災から命を守ります。大火は遠い昔の話ではなく糸魚川の例のように現代でも起こり得る身近な災害です。
自分の住む街が燃えやすい地域かどうか、避難場所はどこかを確認しておきましょう。


