台風の進路予報図を見ていると、多くの台風が日本のはるか南の海上をいったん西から北西へ進み、ある地点を境に大きくカーブを描いて北東へ抜けていきます。地球は西から東へ回っている(自転している)のに台風の出だしはその逆の西向き。ここから 「台風が西へ進むのは、地球の自転と逆向きに動いているからなのかな?」 と考えたことはありませんか?
この記事では、台風が西へ進む本当の理由を気象庁の解説をもとに整理します。結論を先にお伝えすると西進の主役は「自転と逆だから」ではなく 台風のまわりに吹く風に流されるしくみ です。ただし地球の自転がまったく無関係というわけでもありません。どこまでが本当でどこからが誤解なのかを順番に見ていきます。
「自転と逆だから西へ進む」は本当か
まず結論からお伝えします。「台風が西へ進むのは地球の自転と逆だから」という説明は、イメージとしては惜しいのですが仕組みの説明としては正確とはいえないようです。台風が西へ進む主な理由は、台風そのものを取り巻く大きな風の流れに流されることだと気象庁は説明しています。台風は自前のエンジンで好きな方向へ走っているのではなく、川の流れに浮かんだ葉っぱのように周りの風に運ばれている——そんなイメージで捉えると分かりやすいかもしれません。
では、その「まわりの風」とは具体的に何なのでしょうか。そして「自転と逆」という説明は、どこがどう惜しいのでしょうか。ひとつずつ見ていきます。
台風には「回る動き」と「進む動き」がある
台風の動きを考えるときは、ふたつの動きを分けて捉えると整理しやすくなります。ひとつは、台風そのものが反時計回りに渦を巻く 「回る動き」。もうひとつは、その渦全体が地図の上を移動していく 「進む動き」 です。
「自転と逆」というイメージは、このうち「回る動き」と「進む動き」が頭の中で混ざってしまうことから生まれやすいようです。渦が反時計回りに回ること自体は地球の自転(コリオリの力)と深く関係していますが、その渦全体がどちらの方角へ移動するのかは別のしくみで決まります。この記事で扱うのは後者、つまり「台風という渦が、地図の上をどちらへ進んでいくのか」という話です。ここを切り分けておくと、このあとの説明がすっきり読めるはずです。
台風を動かす「まわりの風」という考え方
気象の世界では、台風を流していく風の流れを指して 「台風を動かすのは、まわりの風」 と説明されることがあります。台風が進む向きや速さは、台風の中心付近の激しさそのものよりも台風が置かれている場所にどんな風が吹いているかで決まるという考え方です。
専門的には、この台風を流す風を 「指向流(しこうりゅう)」 と呼ぶこともあります。ただし気象庁の一般向けの解説では「上空の風に流されて動く」というやさしい表現が使われています。いずれにしても台風の進路を読むときは「いま台風のまわりに、どんな大きな風が吹いているか」を見るのが出発点になります。
出典:気象庁「台風とは」
出だしが西向きになる理由
低い緯度では東風(貿易風)に乗って西へ
台風の多くは、日本のはるか南にあたる赤道に近い暖かい海の上で生まれます。気象庁の解説では「台風が多く発生する領域では東風が吹いているため、始め東風に流されて西へ進みます」とされています。つまり、生まれたばかりの台風のまわりには東寄りの風(東から西へ吹く風)が広がっていて、その流れに乗るので出だしは西向きになるというわけです。この東寄りの風は 「貿易風」 や 「偏東風(へんとうふう)」 と呼ばれます。
出典:気象庁「台風を動かすのは何?」(気象庁キッズコーナー)
太平洋高気圧のふちに沿って回り込む
この東風をつくっている主役のひとつが夏から秋にかけて日本の南の海上に大きく広がる 「太平洋高気圧」 だとされています。高気圧のまわりでは時計回りに風が吹き出していて、その南側のふちでは東寄りの風、西側のふちでは南寄りの風になります。台風は、この高気圧のふちを縁取るように南のふちでは西へ、やがて西のふちにさしかかると北へと運ばれていきます。大きな山(高気圧)を時計回りに迂回していくようなイメージです。

じゃあ、台風が西に進むのはやっぱり自転と逆だからじゃないの?

出だしが西向きになる主な理由は、台風のまわりに吹いている東風に流されるからなんです。地球の自転も少しは関係しているのですが、西へ進ませる主役ではないとされていますよ。
「自転と逆だから西」はどこが惜しいのか
ここが今回のポイントです。「自転と逆だから西へ進む」という説明には見落とされがちな点がふたつあります。
ひとつ目は、地球の上では空気も地面も一緒に自転している という点です。台風だけが自転に取り残されて逆向きに押し戻されるというわけではありません。台風の進む向きは、あくまで地面に対してどちらへ動くかという話で、それを決めているのはまわりの風(気圧の配置)だとされています。
ふたつ目は、地球の自転がもたらす 「コリオリの力」 が果たしている役割です。自転の影響ではたらくこの力は動いているものの進む向きを横へそらしたり、台風の渦を反時計回りに回したりする働きをします。いわば「曲げる・回す」力であって「西へ押す」力ではないと考えられています。実際のところ気象庁は台風について、地球の自転の影響で自分自身でも北へ進む力を持つものの、この力は上空の風が弱いときを除いて主要な力ではないと説明しています。自転の影響は、台風をわずかに北へ向かわせる脇役としてはたらくものの西進の主役ではない、という整理です。
つまり「自転と逆だから西」は、自転が関係しているという雰囲気は当たっていても、西へ進ませているのは自転ではなく東風というところが惜しいのです。かといって「自転はまったく関係ない」と言い切るのも正確とはいえず、「自転は北向きの脇役、西進の主役は東風」と二段構えで捉える のがよさそうです。
出典:気象庁「台風を動かすのは何?」(気象庁キッズコーナー)/気象庁「台風とは」
だから台風は途中から東へ向かう(転向)
「自転と逆だから西」という説明がうまくいかない、もうひとつの分かりやすい手がかりがあります。それは多くの台風が途中から進路を東寄りに変えることです。
もし「自転と逆向きだから西へ進む」のだとしたら、台風はずっと西へ進み続けるはずです。ところが実際には日本の南で北上した台風の多くが、ある緯度を境に北東へ大きくカーブしていきます。これを 「転向(てんこう)」 と呼びます。気象庁の解説でも太平洋高気圧のふちを吹く風にそって北上し、偏西風(へんせいふう)に流されて北東へ進むことが多くなるとされています。
出典:気象庁「台風を動かすのは何?」(気象庁キッズコーナー)
中緯度の上空には、西から東へ吹く強い風 「偏西風」 が流れています。北上した台風がこの偏西風帯に入ると今度は東向きの流れに乗って北東へ運ばれ、しかも速度を上げて進むことが多くなります。出だしは西(自転と逆向き)でも転向したあとは東(自転と同じ向き)へ進むわけです。同じ台風が途中で自転と同じ向きに変わる以上、「自転と逆だから西」だけでは進路の全体を説明できないということになります。

最初は西、あとから東って、ずいぶん気まぐれだね。

台風はそのときどきで、まわりのどの風がいちばん強いかに従っているんです。低い緯度では東風、高い緯度では偏西風。主役の風がバトンタッチするので進路がカーブして見えるんですよ。
しくみが分かると進路予報が読みやすくなる
台風が「まわりの風に流される」と分かると進路予報の見方も少し変わってきます。台風がどちらへ進むかは、その時々の太平洋高気圧の位置や強さ・偏西風の位置によって変わります。高気圧が日本の上に強く張り出していれば台風はそのふちを大きく迂回し、高気圧が弱まったり東へ後退したりすれば、台風は高気圧のふちを回り込んで日本付近へ北上しやすくなると説明されます。
夏の終わりから秋にかけて日本へ接近・上陸する台風が増えるのも、太平洋高気圧がしだいに後退して台風が高気圧のふちを北上しやすくなる時期にあたるためだといわれます。進路予報の 「予報円」 は台風の中心が進むと予想される範囲を示したもので、円が大きいほど進路の見通しが立てにくいことを表すとされています。予報円が日によって大きく描かれたり小さく描かれたりするのも、こうしたまわりの風の読みづらさが背景にあるといえそうです。
台風がどんなしくみで動くのかを知っておくと「いま高気圧はどこにあるのか」「そろそろ転向しそうか」という視点でニュースの解説を聞けるようになり早めの備えにつなげやすくなります。実際の家庭での備えは、こちらの記事もあわせてご参考ください。


台風そのものの呼び名や渦の回転方向については、こちらの記事でも整理しています。

まとめ
台風が西へ進む理由を整理しました。
- 西進の主役は「自転と逆だから」ではなく、台風のまわりに吹く東風(貿易風)に流されるしくみ
- その東風をつくる主役のひとつが太平洋高気圧であり、台風はそのふちを回り込むように進む
- 地球の自転(コリオリの力)は、向きを曲げたり渦を回したり、台風をわずかに北へ向かわせる脇役で西へ押す主役ではないとされる
- 中緯度で偏西風に乗ると北東へ「転向」し、出だしと逆の東向きに進む
- だから「自転と逆だから西」だけでは進路の全体は説明できない
「台風はまわりの風に流される」というひとつの見方を押さえておくと、進路予報のニュースがぐっと読みやすくなります。次に台風情報を見るときは、ぜひ「いま太平洋高気圧はどこにあるのかな」と想像しながら眺めてみてはいかがでしょうか。


