もし災害で断水したときにゴミのことまで考えたことはあるでしょうか?
災害の備えとして水・食料・トイレの優先度が高くなります。対してゴミはその陰に隠れて後回しになりがちです。しかし収集が止まれば出せないゴミは家の中に留まり続けます。夏なら数日で臭いが立つことになり虫が湧いてくる可能性があります。
この記事では災害でゴミ収集が止まったときに生ゴミの臭いと虫をどう抑えるかをハエが羽化するまでの「1週間」を分かれ目にして整理していきます。
収集が止まると家で何が起きるか
まずゴミを家で保管することは自治体側の想定に入っていることが多いです。横浜市は災害時のごみについて「大規模な災害が発生した場合、生活ごみの収集を中止する場合があります。収集再開まではご家庭でごみの保管をお願いいたします」と案内しています。
同市は「『生活ごみ・避難所ごみ』と『片付けごみ』はそれぞれ分けてお出しください」とも示しています。壊れた家財や泥をかぶった畳といった片付けごみと毎日の食事から出る生活ごみは別物として扱われるわけです。
本記事が扱うのは生活ごみの方、つまり収集が止まっても毎日出続けるゴミになります。
家の中で起きることは、おおむね次の順で進みます。
- 臭いが立つ — 数日のうちに袋の外へ漏れはじめます
- 虫が寄る — 臭いを頼りに成虫が飛んできて卵を産みつけます
- 衛生が崩れる — 卵がかえって幼虫が育ち家の中が発生源になります
厄介なのは1の段階では「臭うけれど我慢すればいい」と感じてしまう点です。実際にはこの間に2が進んでいます。臭いは我慢の問題ですが虫は元に戻すのが難しくなります。
なお冷蔵庫の中身が傷んだときに「捨てるか食べるか」を判断する話はこちらにまとめています。

ハエは1週間で羽化する
東京都豊島区はハエについて「1週間以内にゴミ・厨芥・糞を処分すれば、卵を産みつけられても成虫が羽化することはありません」と説明しています。
出典:豊島区「ハエ」
裏を返せば、卵を産みつけられること自体は避けられなくても1週間以内に手放せれば成虫にはならないということです。
埼玉県も「好条件下では10日程度で卵から成虫になります」としており条件が揃えば1週間から10日で世代が一巡します。
出典:埼玉県「ハエのなかま」
1週間を境に問題の質が変わる
この数字を災害に当てはめると次のように整理できます。
| 収集停止の期間 | 主な課題 | 備えの重点 |
|---|---|---|
| 数日〜1週間以内 | 臭い | 密閉して臭いを漏らさない |
| 1週間を超える | 臭い+虫の発生 | 発生源を作らない・成虫を近づけない |
数日で収集が戻るなら、しのぐ相手は臭いだけです。ところが1週間を超えるならば家の中で世代が一巡する可能性が出てきます。ここから先は「我慢する」では済まなくなります。
家庭のゴミがそのまま発生源になる
同じく豊島区ではハエの発生場所を「ゴミ・犬猫の糞・漬物桶等・動物の死体などです」とし、「都会では、主にゴミ、厨芥から発生します」と述べています。なお厨芥とは調理くずや食べ残しのことです。
つまり住宅街で虫が湧くとき、その供給源はどこか遠くではなくそれぞれの家のゴミだということになります。自分の家の対策がそのまま近所への影響にもつながっていきます。

ゴミが臭くなるのはわかるけど、虫ってどれくらいで湧いちゃうのかな。

条件が揃うと卵から1週間ほどで成虫になるとされていますよ。だから収集が止まって何日たったかで、やるべきことが変わってきます。
腐敗と虫を抑える3つの条件
何をすれば進行を遅らせられるのでしょうか。生ゴミが腐り虫が湧く過程には次の3つが関わっています。
- 水分 — 腐敗を進める細菌にも卵からかえった幼虫にも水分が要ります
- 空気(臭いの逃げ道) — 臭いが外へ漏れれば、それを頼りに成虫が飛んできます
- 温度 — 高いほど進行が速くなります。夏に問題が大きくなるのはこのためです
この3つのうち家庭で手を打てるのは主に水分と空気です。温度は置き場所の選び方である程度まで下げられます。
対策の方向性としては目指すのは虫を殺すことではなく、そもそも発生させないことです。豊島区も「ハエ防除の基本は発生源をなくす清掃等を第一に考えましょう」と述べています。
出典:豊島区「ハエ」
殺虫剤は飛んでいる成虫には効きますが、袋の中で育っている幼虫には届きません。断水中は掃除も思うようにできないため、発生源を作らない方向に力を割くほうが現実的です。
3条件別の生ゴミ対策
①水を切る
最初の対策です。広島市は家庭ごみの出し方として「生ごみは、よく水を切って、新聞紙などに包んで出してください。」と案内しています。
これは平時の案内ですが具体的には次のような形です。
- 三角コーナーに溜めず、調理のたびに水を切って袋へ移す
- 濡れた生ゴミは新聞紙やキッチンペーパーで包み、水分を吸わせる
- 断水中は洗い物の水も貴重なので食器は先に紙や布で拭ってから
水を含んだ生ゴミは重く臭いも強くなります。捨てる前のひと手間がそのまま保管中の負担を減らします。
②密閉して臭いを漏らさない
臭いが漏れなければ成虫は寄ってきにくくなります。埼玉県はハエの予防として「生ゴミを蓋つきの容器で成虫の侵入を防ぐ」「網戸を閉める」「細かいすき間をふさいで侵入を阻止」を挙げています。
出典:埼玉県「ハエのなかま」
家庭で行うこととしては、ゴミそのものを密閉することと部屋に成虫を入れないことになります。前者は袋の口をしっかり縛って蓋つきの容器へ入れる、後者は網戸を閉めて窓のすき間をふさぐという形です。
臭いを閉じ込める袋については、こちらの記事で仕組みから扱っています。

③置き場所の温度を下げる
停電していれば冷蔵や冷凍には頼れません。そのような状況において温度を下げる手立ては置き場所の選択しか残りません。
避けたいのは直射日光です。日中に日が当たる場所へ置くと袋の中の温度は室温よりさらに上がります。日陰で風が通り、居住空間から離れている場所が候補になります。どこが適しているかは住まいによって変わるため、次の章で整理します。

ベランダに出しておけば、部屋の中は臭わないんじゃないの?

室内に持ち込まない点は良いのですが、直射日光が当たると袋の中の温度は室温より上がってしまいます。日が当たらない側に、蓋つきの容器で置くほうが望ましいと思いますよ。
置き場所の優先順位は住まいで変わる
保管場所の候補は次の4つになると考えられます。
| 置き場所 | 向いている点 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| ベランダ | 室内に臭いを持ち込まない | 直射日光で温度が上がる。階下や隣戸へ臭いが流れる |
| 浴室 | 扉で仕切れる。水で流せる | 停電で換気扇が止まる。入浴や洗濯に使えなくなる |
| 玄関・土間 | 温度が上がりにくい | 出入りのたびに臭う。来客時に困る |
| 屋外の物置 | 居住空間から完全に離せる | 戸建て向け。動物に荒らされることがある |
戸建ての場合
屋外の物置や勝手口の外が第一候補になります。居住空間から離せる上、温度も室内ほど上がりません。物置が無ければ日陰になる北側の外壁沿いに蓋つきの容器を置く形が取りやすいところです。動物やカラスに荒らされないように蓋が固定できるものを選んでおきます。
マンション・集合住宅の場合
共用部やゴミ置き場に出せない前提で考えることになります。収集が止まっている以上、ゴミ置き場に運んでも滞留するだけでかえって建物全体の発生源を大きくしてしまいます。
ベランダは室内に臭いを持ち込まない利点がありますが上下階や隣戸との距離が近く、臭いが流れれば苦情につながりかねません。日が当たらない側のベランダに密閉できる容器で置くのが落としどころになりそうです。玄関の内側も候補ですが共用廊下側に臭いが出ないよう密閉を優先します。
賃貸の場合
退去時の原状回復を考えた場合には床や壁に臭いや汚れを移さない工夫が要ります。容器を一枚かませる(直置きしない)ことや下に新聞紙やシートを敷いておくことで後の負担がだいぶ変わります。
なお片付けで大量に出るごみは生活ごみとは別に扱います。水害後の作業でどんな装備が要るかはこちらにまとめています。

備えておきたいもの
ここまでの対策は道具がそろっていれば手早く回せます。
①臭いを閉じ込める袋
生ゴミ対策の中心になります。
普通のポリ袋は臭いを通すため、臭いを外へ出しにくい素材の袋を用意しておくと保管中の負担がまるで変わります。消耗品なのでまとめ買いに向いています。使用済みの携帯トイレとも共用できるため、多めに備えておいて無駄になりません。
②蓋つきの密閉容器
袋だけでは開け閉めのたびに臭いが漏れます。
パッキンで縁が密着するタイプなら、蓋を閉めている間の臭い漏れを抑えられます。屋外に置くなら、風で飛ばず動物に開けられない重さと構造のものを選びます。
③水切り用品
先ほどの「①水を切る」を実行するための道具です。
排水口用のネットや水切り袋があれば、調理くずをそのまま絞って捨てられます。単価は低いのに効果が大きいため、備蓄リストに入れておきたいところです。
④消臭・防虫
密閉しても完全に無臭にはなりません。ゴミ箱に入れて使う消臭剤や容器のまわりに置く防虫剤を足しておくと保管が長引いたときに効果があります。

虫が出たら殺虫剤をまけばいいんじゃないの?

飛んでいる成虫には効きますが、袋の中で育っている幼虫には届きにくいとされています。まずは発生源を作らないほうが現実的ですね。
備蓄全体の組み立て方については、こちらの記事で整理しています。

まとめ
最後に要点は次のようになります。
- 収集が止まれば家庭で保管することになります。この状況自体は自治体側の想定内でもあります
- 1週間が分かれ目です。1週間以内に手放せれば、卵を産みつけられても成虫にはなりません
- 関わる条件は水分・臭いの逃げ道・温度の3つで手を打てるのは主に前の2つです
- 水を切って新聞紙に包み、密閉して蓋つき容器へ。これが基本
- 置き場所は住まいで変わります。マンションは共用部に出せない前提で日陰のベランダを密閉で使います
ゴミは水や食料ほど注目されませんが放っておくと衛生そのものが崩れていきます。
防臭袋を少し多めに備えるところから始めてみてはいかがでしょうか。


