大きな地震のあと足元に何が散らばっているか想像したことはあるでしょうか?
割れた食器やコップ、窓ガラスの破片、倒れた本棚から落ちた小物。揺れがおさまって「逃げよう」と立ち上がったその一歩を裸足や靴下のまま踏み出せるでしょうか。多くの方が飲み水や食料は意識していても足を守る備えまでは手が回っていないように見受けられます。
足のケガは避難そのものを遅らせたり止めたりする要因になり得ます。歩けなければ家族を助けに動くこともできませんし傷口からの感染も心配です。
この記事では、屋内で割れたガラスを踏み抜かないための防災スリッパと、屋外・避難時にがれきの中を歩くための靴について選び方と置き場所を整理します。併せて子どもや高齢者への配慮、サイズの確認といった見落としやすい点にも触れていきます。
地震で足をケガすると避難できない?まず足元を守る理由
そもそも地震でケガをする原因はどこにあるのでしょうか。東京消防庁の資料では、地震によるケガの原因の約30%〜50%が家具類の転倒・落下・移動によるものだったと説明されています。倒れた家具そのものの下敷きになるだけでなく、その家具が動いた結果として扉がふさがれて逃げられなくなるケースもあるとされています。
出典:地震時の危険|東京消防庁
ここで見落とされがちなのが家具が倒れた「あと」に床へ広がるものです。総務省消防庁の資料でも食器棚などは扉が開いて中の食器類が散乱し、室内が散乱状態になると避難が遅れてしまうと説明されています。割れた食器やガラスのかけらは、想像以上に鋭く、薄く、そして広範囲に飛び散ります。停電で部屋が暗ければ、どこに何が落ちているかも見えません。
出典:「家具が倒れると逃げ道まで塞がれて恐いね」|総務省消防庁
そんな床を靴下や裸足で歩いたらどうなるでしょうか。小さなガラス片でも深く刺されば出血しますし傷をかばって歩けば避難はぐっと遅くなります。災害直後は病院も混乱していて、すぐに手当てを受けられるとは限りません。断水していれば傷口を十分に洗えず、清潔を保ちにくい状況も考えられます。だからこそ揺れがおさまってまず最初に確保したいのが「足元の安全」だと考えられます。飲み水やヘルメットと同じくらいに足を守る装備は基本の備えと言えるでしょう。
足元の安全は自分のためだけのものではありません。家族の誰かが下敷きになっていたり、火の元を確認したりと地震の直後はすぐに動かなければならない場面が続く可能性があります。そのとき足を切ってしまうと助ける側が動けなくなってしまいます。自分の足を守ることが結果として家族を守ることにつながると考えてみてください。

正直、地震のときに足のケガまで考えたことなかったよ。家具を固定すれば十分なんじゃないの?

家具の固定はとても大切で、まず取り組んでほしい対策です。ただし、それでも食器やガラスが割れて床に散らばる可能性は残ります。固定で「倒れにくくする」のと足を守って「散らばったあとに安全に動く」のは、両方そろってはじめて安心につながると考えてみてください。
家具そのものの転倒対策は足元の備えと並ぶ柱です。寝室やリビングの家具固定がまだなら、こちらもあわせて見直しておきたいところです。

屋内用|防災スリッパで割れたガラスを踏み抜かない
では室内で足を守るには何を用意すればよいのでしょうか。中心になるのが「防災スリッパ」です。普段はリラックスのために履くスリッパですが、防災用途のものは底が大きく異なります。多くは靴底のなかに踏み抜きを防ぐためのインソール(中敷き)が仕込まれています。素材は薄い鋼板のものや硬質の樹脂・特殊繊維を使ったものなどさまざまで、上から鋭いものを踏んでも足裏まで突き抜けにくい構造になっているものが多いです。
参考までに、業務用の安全靴の世界では踏み抜き防止板の性能を測る規格が定められています。日本産業規格(JIS T8101)では、踏み抜き防止板に一定以上の力が加わっても試験用のくぎが貫通しないことなどが求められているとされており性能を満たすものには記号で表示がなされます。家庭用の防災スリッパが同じ規格に沿っているとは限りませんが、「踏み抜き防止」をうたう製品が何を目指して作られているかの目安にはなるでしょう。
ふだん使いのスリッパとの違いは、底の硬さと厚みに加えてつま先まわりの作りにもあらわれます。防災用は、つま先が覆われていて足の甲を守りやすいものや、かかとが固定されて脱げにくいものが多い印象です。布だけの薄いスリッパでは、ガラス片はかんたんに貫通してしまいますから見た目が似ていても役割はまったく別物だと考えてよいでしょう。
置き場所として効くのは寝ている時間をカバーできる枕元です。地震は時間を選びません。夜中に被災して暗いなか散乱した床を歩く場面を想像すると、ベッドサイドや布団のすぐ脇に一足あるかどうかは大きな差になります。リビングやキッチンなどガラスや食器が割れやすい場所にも分けて置いておくと安心です。

家にあるふつうのスリッパじゃダメなのかな。一応つま先は隠れてるけど。

気持ちは分かります。ただし布や薄いウレタンだけの底ではガラス片を踏んだときに貫通を防ぎにくいとされています。「踏み抜き防止」と明記されたインソール入りかどうかを確認してみてください。普段使いと防災用を兼ねるならば底のしっかりしたタイプを一足選んでおくと無駄になりません。
自宅全体の地震対策のなかで足元の備えをどこに位置づけるかを整理しておくと、買い忘れや置き忘れを防げます。

屋外・避難用|がれきの中を歩く靴の選び方
室内のスリッパで一歩目を守れたら次は外へ出る・避難所まで歩くための靴です。屋外は屋内よりも条件が厳しくなります。割れたガラスだけでなく、崩れたブロック塀や瓦、ガラスの破片、釘の出た木材など踏み抜きの危険があるものが道に散らばっているおそれがあるからです。スリッパのままでは長い距離を歩けませんし足首も守れません。
避難用の靴として向いているのは、底が厚くて丈夫なスニーカーやトレッキングシューズのようなしっかりした靴だと考えられます。選ぶ際のポイントを整理します。
- 靴底が厚く硬めで、つま先までしっかり保護できるもの
- 足首を覆う、またはくるぶしまで支えてくれる作りだと、がれきの上でひねりにくい
- 必要に応じて、靴のなかに「踏み抜き防止インソール」を追加して足裏の防御を高める
- ひもタイプなら歩いている途中で脱げないようにしっかり結べる
逆に避けたいのが、サンダルやクロックスのような、つま先や甲が露出する履き物です。普段は快適でも、がれきの上では足の保護がほとんど期待できず脱げやすいために危険が増すと考えられます。同じ理由で、かかとのないミュールやヒールの高い靴も避難には不向きでしょう。
ひもの結び方にも一工夫できます。靴ひもは、一番上の穴まで通してから固結びにし、ほどけにくいよう端を靴のなかに入れておくと歩行中に踏んで転ぶリスクを下げられます。揺れの最中や直後は手が震えて細かい結びがしにくいものですから、普段から「素早く確実に結ぶ」感覚を持っておくと安心です。長く歩くことを前提に足に合ったサイズで、ある程度履き慣れた靴を避難用に回しておくのもひとつの考え方です。新品の硬い靴は靴擦れを起こしやすいためです。
避難の距離も意識しておきたいところです。最寄りの避難所まで何キロあるか、その道に倒壊しそうな塀やガラスの多い建物がないかを晴れた日に一度歩いて確かめておくと、必要な靴の頑丈さがイメージしやすくなります。冬場や夜間の避難では足が冷えると動きが鈍り判断力も落ちやすいとされますから防水性や保温性も選ぶ基準に入れておくとよいでしょう。足を一度傷つけてしまうと、その先の長い避難生活で歩くこと自体が苦痛になり感染症のリスクも残ります。最初の一歩から最後まで足を守りきるという視点で靴を選んでみてください。

おすすめの選び方|用途別(屋内スリッパ/避難用スニーカー/踏み抜き防止インソール)
ここまでを踏まえて何をどう選べばよいかを用途別に整理します。すべてを一気にそろえる必要はなく、まずは「枕元の一足」から始めて少しずつ広げていくのが現実的でしょう。
まず屋内用には、踏み抜き防止インソールの入った防災スリッパ、またはルームシューズを選びます。底がしっかりしていて、つま先が覆われ、かかとが固定されて脱げにくいものが扱いやすい印象です。家族の人数分かつ、できれば一人一足を寝室に用意できると理想的です。
屋外・避難用には、底の厚いスニーカーやトレッキングタイプの靴が候補になります。すでに持っている履き慣れたスニーカーを避難用に決めておくだけでも備えとしては前進します。雨や水たまりも想定するなら、防水性のあるタイプだと足が冷えにくく長時間の歩行でも疲れにくいと考えられます。
手持ちの靴をそのまま生かしたいならば、別売りの「踏み抜き防止インソール」を加える方法があります。いつものスニーカーに一枚入れておくだけで足裏の防御を底上げできるのが利点です。サイズに合わせてカットして使うタイプもあります。新しく靴を買い足すよりも手軽に始められますし職場用や通学用の靴に一枚ずつ入れておけば、外出先で被災したときにも足を守りやすくなります。歩き心地が変わることもあるため入れたあとに一度履いて確かめておくとよいでしょう。
ライトや笛、軍手などと組み合わせると足元の備えはさらに心強くなります。靴やスリッパと一緒にまとめておけるセット型のグッズも置き場所をひとつにできる点で便利でしょう。
なお、ここで挙げているのはあくまでタイプ・用途の整理です。具体的な製品は、底の構造や踏み抜き防止の有無、サイズ展開を確認したうえでご自身の生活環境に合うものを選んでください。防災グッズ全体のなかでの位置づけや他に揃えておきたい品とのバランスを見たい方は、こちらもあわせてご覧ください。

正しい備え方|枕元・玄関・持ち出し袋に分散とサイズ
良い靴やスリッパを買っても、いざというときに手の届かない場所にあっては意味がありません。大切なのは「どこに分散して置くか」です。地震はいつ起きるか分かりませんから生活の動線にあわせて足元の備えを散らしておくのが基本になります。
最優先は枕元です。寝ている間に被災すると暗いなか散乱した床を歩いて避難することになります。スリッパや底のしっかりした靴をベッドサイドや布団のすぐ脇に置き、あわせて懐中電灯やヘッドライト、笛をひとまとめにしておくと暗闇でも足元を照らしながら安全に動けるでしょう。靴は枕元用の袋にまとめておくと揺れで飛んでいきにくくなります。
次に玄関です。屋外へ出るときの避難用スニーカーは玄関にそろえておくと自然な動線で履けます。家族それぞれの避難用の靴を決めて定位置を共有しておくと慌てずに行動できます。そして持ち出し袋にも、軽量のスリッパや替えのインソール、靴下を入れておくと避難所での生活や移動で役立ちます。持ち出し袋の中身を見直すタイミングで足元の備えが入っているかもチェックしてみてください。

忘れがちなのがサイズの確認です。子どもの足はすぐに大きくなりますから半年から一年ごとに用意した靴やスリッパが今も履けるかを見直したいところです。高齢のご家族には、脱ぎ履きしやすく、それでいて脱げにくい作りのものが向いていると考えられます。マジックテープで留められるタイプなら力の弱い方でも扱いやすいでしょう。家族の人数や年齢に合わせて一人ひとりに足元の備えが行き渡っているかをこの機会に点検してみてください。

枕元と玄関と持ち出し袋、全部に置くと数がいるね。どこから始めたらいい?

まずは枕元の一足からで十分です。夜間に被災したときの最初の一歩を守れることの効果が大きいからです。そこから玄関の避難用スニーカー、持ち出し袋の予備、と順に広げていけば、無理なく備えが整っていきます。家族みんなのサイズ確認も衣替えのタイミングなどに合わせると続けやすいですよ。
まとめ
大きな地震のあとの床には割れた食器やガラス、家具の破片が散らばるおそれがあります。東京消防庁の資料でもケガの原因の約30%〜50%が家具類の転倒・落下・移動によるものとされ、その「あと」に広がる破片も足を傷つけ避難を遅らせる要因になり得ます。足を守ることは自分や家族が安全に動くための土台だと言えるでしょう。
屋内では踏み抜き防止インソール入りの防災スリッパで割れたガラスから足裏を守り、屋外・避難時には底が厚く丈夫なスニーカーやトレッキングシューズでがれきの中を歩けるようにしておく。手持ちの靴には踏み抜き防止インソールを足すという選択肢もあります。そして枕元・玄関・持ち出し袋に分散して置き、サイズや子ども・高齢者への配慮を忘れないこと。まずは枕元の一足から今日できる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


