停電でガスも止まったときには火はどうやってつけますか?
災害でライフラインが断たれると調理にもあかりにも暖をとるにも「火をつける」という当たり前の動作が急に難しくなることがあります。いつも使っているガスコンロのスイッチを押しても反応しない、湿気でマッチがすれない、ライターのガスが切れていたといった場面は決して珍しくありません。
この記事では、非常時に役立つ着火グッズを ターボライター・防水マッチ・ファイヤースターター・固形燃料・着火剤 の5種類にわけて、それぞれの特徴と防災での向き不向きを整理します。あわせて「1種類に頼らない」という 3層の着火備え の考え方と防災用に選ぶときのポイント、室内で火を使うときの注意点までまとめてご紹介します。
非常時に「着火の備え」が必要な理由
普段は意識しませんが、火をつける手段は意外ともろいものです。なぜ着火グッズをあらかじめ備えておくとよいのかを整理します。
昔ならばタバコを吸うおとなも多かったのでライターやマッチは今より身に着けている、家においてあるご家庭も多かったですが、現在ではそもそも携帯できる着火器具を持っていないところも多くなってきているかもしれません。
停電すると電気点火式のコンロも止まることがある
オール電化住宅のIHクッキングヒーターが停電で使えなくなるのはイメージしやすいと思います。見落としやすいのは、都市ガスやプロパンのガスコンロでも 点火に電池や電気を使うタイプは電源がないと火がつかない 場合があることです。乾電池式であれば電池切れ、コンセント連動式であれば停電がそのまま着火不能につながります。
熱源としてカセットコンロを備えている家庭は多いですが、その着火部分が壊れたりチャッカマンのガスが切れていたりすると、せっかくのコンロも宝の持ち腐れになりかねません。熱源と「火をつける道具」はセットで考えておくと安心です。

ライフラインの復旧には時間がかかることがある
大きな災害では、電気・ガス・水道の復旧に数日から数週間かかることがあります。電気は比較的早く戻りやすい一方で都市ガスは安全確認に時間を要し、復旧が後ろにずれ込む傾向があるとされています。「すぐ元に戻るだろう」と考えず、しばらくは自前の熱源と着火手段でしのぐつもりで備えておくほうが現実的です。
火が要るのは調理だけではない
非常時に火が役立つ場面は思っているより多くあります。
- お湯を沸かす:アルファ米・カップ麺・レトルト・粉ミルクなど、お湯があると食べられる備蓄食の幅が広がります
- 温かい食事をとる:冷えた体を内側から温め、気持ちの面でも落ち着きます
- 暖をとる:寒い時期の停電では、わずかな熱源があるだけで体感が変わります
- ろうそくやランタンを灯す:あかりの確保にも着火手段は欠かせません
着火グッズ5種類をくらべる
ひとくちに着火グッズといっても、それぞれ得意・不得意があります。代表的な5種類を防災の視点で見くらべてみましょう。
| 種類 | 着火のしやすさ | 防水・防湿 | 長期保管 | コスト目安 |
|---|---|---|---|---|
| ターボライター(充填式) | とても簡単 | 風に強い・水濡れは苦手 | ガス補充で長く使える | 中 |
| 防水マッチ | 簡単 | 水・風に強い | 数年〜(湿気管理しだい) | 低〜中 |
| ファイヤースターター | コツが要る | 濡れても使える | 半永久的 | 低〜中 |
| 固形燃料 | 着火具が別途必要 | 個包装なら湿気に強い | 製品により数年 | 低 |
| 着火剤 | 火種を移しやすい | 防水タイプあり | 製品により数年 | 低 |
ざっくり言うと、手軽さならターボライター、信頼性ならファイヤースターター、コスパと使い回しなら固形燃料・着火剤という関係になります。どれか1つだけが正解というよりも組み合わせて弱点を補い合うのが防災向きの考え方です。
「3層の着火備え」という考え方
ここでひとつ、この記事ならではの整理のしかたを提案します。着火手段は 3つの層 にわけて重ねて備えておくと安心しやすくなります。1種類が使えなくても次の層が残るという冗長性の発想です。
第1層:日常の延長ですぐつく「ターボライター」
普段から使い慣れていてボタンひとつで火がつくものを最前線に置きます。充填式のターボライターは風に強く補充すれば繰り返し使えます。まずはここで大半の場面をカバーします。
第2層:電気もガスも要らない予備「防水マッチ・固形燃料」
ターボライターが壊れたりガス切れになったときの予備として電気にもガス機器にも依存しない手段を用意します。防水マッチは水や風に強く固形燃料は火種さえあれば安定して燃え続けるので湯沸かし程度なら十分にこなせます。
第3層:最終手段として残る「ファイヤースターター」
電池もガスも尽きたとしても金属の棒を擦って火花を出すファイヤースターターは火種を作れます。慣れが必要な道具ですが、半永久的に使え濡れても機能する点が頼もしい最後の砦になります。

1種類だけしっかりそろえておけば十分じゃないんですか?

それだと、いざその1種類が使えなかったときに手詰まりになってしまうんです。性質のちがう手段を2〜3層に重ねておくと、ひとつダメでも次でカバーできて安心ですよ。
火を「つける」備えと同時に火を「消す」備えも忘れないようにしたいところです。室内で火を扱う以上、初期消火の手段として家庭用消火器も用意しておくと、いざというときに落ち着いて対応できます。

防災用に選ぶ3つのポイント
キャンプ用としての選び方と防災用としての選び方は少しちがいます。防災では「楽しさ」よりも「いざというときに役立つか」を優先したいので次の3点を意識して選ぶとよいでしょう。
① 防水・防湿性能
非常持ち出し袋は屋外で雨に濡れたり長期保管中に湿気を吸ったりします。マッチは湿気るとすれなくなり、紙箱の側薬もふやけてしまいます。防水加工された製品や、密閉ケースに入った製品を選ぶと、湿気による「いざというときにつかない」を避けやすくなります。
② 信頼性(電池・ガス切れのリスク)
電気やガス、電池に依存する道具は、それらが切れた瞬間に使えなくなります。便利さと引きかえに弱点もあるということです。依存先のちがう手段を組み合わせておくと、どれかが切れても他でカバーできます。
③ 長期保管のしやすさ
防災グッズは「買って終わり」ではなく何年も保管したうえでいざというときに働いてもらう必要があります。ガスは時間とともに少しずつ抜けることがありますし固形燃料も製品によっては成分が揮発します。年に一度は点検し消耗しているものは入れ替えるローテーションを前提に選びましょう。
おすすめ着火グッズ5選
ここからは3層の備えをそろえやすい具体的な着火グッズを5つご紹介します。気になるものから自身の備えに組み込んでみてください。
① 充填式ターボライター(第1層の主役)
風のある屋外でも火がつきやすくガスを補充すれば繰り返し使える充填式のターボライターです。火口が伸びるタイプなら奥まったコンロやランタンにも点火しやすく、日常使いと兼用できます。まずは1本、使い慣れたものを備えておくと安心です。
② 防水・防風マッチ(第2層の定番)
水に濡れても風が吹いていても火がつくよう作られたマッチです。専用ケースに入っていて湿気にも強く電気もガスも要りません。ターボライターが使えないときの予備として持ち出し袋に1つ忍ばせておくと頼りになります。
③ マグネシウム製ファイヤースターター(第3層の最後の砦)
金属の棒をストライカーで擦り、火花を散らして火種を作る道具です。電池もガスも使わず濡れても機能し、半永久的に使えるのが特長です。やや練習が要りますが最終手段として1つ持っておくと備えに厚みが出ます。
④ 固形燃料(安定して燃える熱源)
火種を移すだけで一定時間しっかり燃え続け湯沸かしや簡単な調理に向く固形燃料です。個包装タイプは湿気に強く、軽くてかさばらないので備蓄にも携行にも適しています。カセットコンロのボンベを節約したい場面の補助にも使えます。
⑤ 着火剤(火を育てるための助け)
火種を大きな炎へ育てたいときに役立つのが着火剤です。防水タイプなら濡れた環境でも火がつきやすく、マッチやファイヤースターターのわずかな火種からでも安定して燃え上がらせやすくなります。固形燃料や薪と組み合わせると着火の成功率が上がります。
使うときの注意点
着火グッズは火を扱う以上、使い方を誤ると思わぬ事故につながります。安全に使うために次の点に気をつけましょう。
室内で火を使うときは換気を忘れない
停電中に締め切った室内でカセットコンロや固形燃料を使うと不完全燃焼によって 一酸化炭素中毒 を起こすおそれがあります。一酸化炭素は色もにおいもなく、気づかないうちに体に取り込まれてしまう点が怖いところです。屋内で火を使うときは、こまめに窓を開けて換気し長時間の連続使用は避けましょう。テント内や車内などの狭い密閉空間での使用は特に注意が必要です。
製品評価技術基盤機構(NITE)も停電などの自然災害時に燃焼器具を屋内で使うことによる一酸化炭素中毒の事故が起きていると注意を呼びかけており、特に携帯発電機については屋内で使用しないよう強く促しています。
出典:製品評価技術基盤機構(NITE)「自然災害時にまさかの製品事故!?〜停電時のCO中毒にも注意!〜」

換気って、そんなにこまめにしないといけないんですか?

一酸化炭素は無色無臭で気づきにくいんです。「少し寒いから」と締め切らず、こまめに窓を開けて換気しながら使ってくださいね。
火気の保管場所と、消火の備え
着火グッズや燃料は、高温になる場所や直射日光の当たる場所を避けて保管します。併せて火を使う場所の近くに消火手段を置いておくと初期消火に動きやすくなります。
非常持ち出し袋への組み込み
着火グッズは小さくて軽いものが多いので非常持ち出し袋に入れておきやすい備えです。マッチやライターは防水のケースにまとめ、湿気から守った状態でパッキングしておきましょう。何を入れておくと安心かは持ち出し袋全体のチェックリストとあわせて見直すと整理しやすくなります。

なお、着火グッズはキャンプ用品と兼用しやすい防災アイテムの代表格です。ふだんアウトドアを楽しむ方はキャンプ道具をそのまま防災にも生かすという考え方も役立ちます。

まとめ
非常時の着火グッズについて選び方とおすすめを整理してきました。最後にポイントを振り返ります。
- 第1層:日常の延長ですぐつく 充填式ターボライター
- 第2層:電気もガスも要らない予備の 防水マッチ・固形燃料
- 第3層:最終手段として残る ファイヤースターター
- 選ぶときは 防水・防湿性能/信頼性/長期保管のしやすさ の3点を意識する
- 室内で使うときは 換気をして一酸化炭素中毒を防ぎ、消火の備えも用意する
1種類に頼らず性質のちがう手段を重ねて備えておくと、いざというときに「火がつかなくて困る」場面を減らせます。ご家庭の備えを見直すきっかけに着火グッズの備えを整えてみてはいかがでしょうか。


